母乳育児の国際事情「ボトルベビー病」

日本では当たり前のように手に入る粉ミルクや哺乳瓶、そして衛生的なお水。
日本では当たり前のように手に入るこれらのものも、発展途上国では同じではありません。
世界中では、粉ミルクで育てられた赤ちゃんが次々と命を落としてしまっている事実があり、このことを「ボトルベビー病」と呼んでいます。

哺乳瓶や水が不衛生であることも原因のひとつですが、それだけではありません。
この「ボトルベビー病」には、深い事情が絡んでいるのです。

「ボトルベビー病?」哺乳瓶でミルクを飲むと病気になるの?

いいえ、違います。
粉ミルクにはこんな歴史があるのです。

1960年代頃から世界の大手粉ミルクメーカーが国際的なセールス活動を行いました。
粉ミルクメーカーは大々的に広告を展開し、 粉ミルクは母乳よりも素晴らしいというイメージを人々の間に広めました。

世界中の病院へ販売員を送り、ママたちに「無料でアドバイス」をして「無料で粉ミルクを配布」しました。
赤ちゃんを産んだばかりのママたちは、世界的に有名な会社の最先端の育児食品を与えられることを喜び「わが子のために」と信じて飲ませました。

母乳は赤ちゃんに吸われなくなれば出なくなってしまうのは自然の摂理。
そして「無料の粉ミルクが配布」されるのは最初だけです。

母乳が出なくなってしまったママたちは赤ちゃんをミルクで育てることになります。
安全な先進国ではそれでも元気に赤ちゃんは育ちますが、まだまだ感染症の多い衛生的とはいえない発展途上国では、多くの免疫が含まれた母乳を飲んでいない赤ちゃんはリスクにさらされてしまいます。

また、母乳は無料ですが粉ミルクは有料です。
これは貧しい人々にとって大きな問題です。

親たちはミルク代を節約するためにミルクを薄め、飲み残しを与えるようになります。
さらには、まだ多くの発展途上国では粉ミルクを溶くための「安全な水」が確保できないため、泥水のような不衛生な水でミルクを溶かすこともあります。
哺乳瓶を消毒するための清潔な水や滅菌グッズもありません。

そのような安全とはいえないミルクを飲むことで、赤ちゃんは下痢と栄養失調で衰弱し命を落としてしまう…。
途上国のママたちに粉ミルクを与えてしまったがために赤ちゃんが亡くなってしまう…。
とても悲しい事実です。

そこで、この事態に危機感を持った世界保健機関(WHO)と国際連合児童基金(UNICEF)は国際会議を開きました。
1981年に「母乳代用品の販売流通に関する国際基準(通称WHOコード※)」が、118か国の承認で採択されました。
驚くことに、このときに日本は棄権しています。

そのため、日本の会社を含む多くの粉ミルクメーカーは「WHOコード」を守っていません。
まだまだ日本でも、産院で子どもを産むと当たり前のように「おめでとうございます」と 粉ミルクや哺乳瓶が無料で渡され、販売員によって粉ミルクの作り方を説明され、調乳指導と称して粉ミルクを飲ませることを勧められる産科施設がたくさんあります。

粉ミルクは、母乳育児が困難と確定した母親や、母親を失った子どもたちに最終手段として使用されるものです。
本来、生まれたての赤ちゃん、なりたてのお母さんへ「どうぞ」と勧めるものではないはずなのです。

WHOとユニセフの調査報告によれば、毎年とても多くの赤ちゃんが、直接または間接的に栄養失調が原因で亡くなっています。
そしてその多くは、「もし母乳で育てていたなら助かる命であった」とされています。

わが子の誕生に歓喜するのは世界中のどの親も同じ。
しかし母乳でわが子を育てたいという第一の芽を摘まれ、できるはずだった母乳育児ができなくなったことにより、命までをも落としてしまうという悲しい事実…。
「ボトルベビー病」とは、このようなことをさしているのです。

母乳育児は哺乳類の本能。
「母乳を飲ませたい」ということは、世界中の母の願い。
わが子のためだけではなく、未来の母、そして未来に生まれてくるいのちのためにも、「母乳育児に優しい社会」を見直す時期が来ているのではないでしょうか。
※「母乳代用品の販売流通に関する国際基準(通称WHOコード)」については、続編でご紹介します。

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