医療者の言葉に自信をなくさないでほしい

医療者の言葉に自信をなくさないでほしい

母乳育児は「頑張らなくてはいけない」ものではなく、本来「心地よくて気持ちがいいこと」です。赤ちゃんがほしがるタイミングとママの飲ませたいタイミングが一致し、まるでママと赤ちゃんが連動しているような一体感を得られる体験。「簡単に母乳育児ができると思っていたのに、私はできない」と自信をなくしているママに会うとき、自信をなくしてしまった理由のひとつに「医療者の言葉」がある気がしてなりません。

出産直後に、「こんなおっぱいは無理よ」「吸いにくい乳首ねえ」「赤ちゃんがかわいそう」…このような言葉を助産師や看護師からかけられたら、自信をなくすのはあたりまえ。たとえ、本当に吸いにくい乳首だったとしても、その乳首を上手に吸わせるお手伝いをするのが助産師や看護師のお役目のはずなのに。もし、忙しくて丁寧にかかわることができないのであれば、相談できるところを紹介してあげてほしいと願います。

また、産院を退院してからも、医療者の言葉に自信をなくしているママに出会うことがあります。先日もこんなことがありました。

ママは「母乳で育てたい」と熱心に取り組み、にじむ程度だった母乳が噴水のようによく出るようになった頃、1カ月健診を迎えました。生まれてしばらく黄疸が続いたために体重の伸びがゆるやかなお子さんでしたが、母乳はよく出ているし赤ちゃんの飲み方も上手。「ゆっくり体重が増えていくだろうから見守ろうね」とママと話し、なにも心配していませんでした。しかし、1ヶ月健診では、このようなことを言われてしまったのです。

「この子は栄養を与えられていない。カラ乳を吸わせられてかわいそう。親としてどうなの?」「2週間後にもう1回来て。来なければ児童相談所に連絡するから」と。

このママは、泣き崩れるように帰宅し、母乳育児はもちろん母親としての自信も失ってしまいました。毎日涙が止まらない日々を過ごしたそうです。大切に大切に育ててきた我が子に「虐待の疑い」がかけられてしまったのですから。

1ヶ月健診では、「1日あたりの体重増加」を計算して発育状態を判断するのが一般的です。退院(もしくは生理的体重減少で体重が最も減った日)から1ヶ月健診までの体重を日割り計算し、25g~30g増えていたら母乳が足りていると考るのが一般的。このお子さんは27g増加しており、全く心配な状態ではありません。ではなぜ、医師はこのような発言をしたのでしょうか。おそらく、「1ヶ月健診で1kgの増加」を目安に判断したのではないかと考えます。これは、「おおよそ1日あたり30gぐらい増えるから1ヶ月で1kgくらい」という考え方に基づいているだけであって、「1kg増えなければ発育不良」ではありません。

「1カ月で1㎏増えていないから発育不良」と判断する小児科医が、まだまだ少なくないのが現状です。仮に赤ちゃんの体重が少なかったとしても「体重増加が少ない」=「母乳が出ていない」とは限りません。そして母乳不足かどうかは、おっぱいを見ないと判断はできません。つまり、体重だけを見て「母乳が足りない」とは言えないはずなのですが。

「母乳だけで育つ赤ちゃんの体重増加」について、WHO/UNICEFでは、このように定めています。

★生後6カ月までは、1日の体重増加は18~30g。★1週間の体重増加は125g以上。★生後5~6カ月で出生体重の2倍、1歳で3倍。※母乳不足が考えられるのは、生後6カ月になるまでは、1カ月の体重増加が500g以下、あるいは生後2週間を過ぎても出生体重に戻らない場合。

とされています。「1カ月で1㎏の体重増加が必要」とは、どこにも書かれていません。しかし残念な現状として、このような言葉に自信をなくしてしまうママは少なくありません。ほかにも、こんな言葉をかけられたママに出会ったことがあります。

「この子は低栄養」「おっぱいが枯れている」「発展途上国の子かと思ったよ」「このおっぱいでは無理」「母乳育児はママのエゴ」…。改めて文字にするとやっぱりひどい言葉で、怒りすら覚えます。もちろん、小児科を受診するママの中には無知な人もいるだろうし、虐待の早期発見もしなくてはいけない。厳しく指導しなくてはいけない小児科医の立場も充分理解できます。

ただ、「数字だけではなくて、ママがどんな人かを見てほしい」と思う。育児に熱心なママなのか、それとも無知なママなのかを見てほしい、と。育児に一生懸命に取り組んでいるママなら、わが子のことをきちんと見ています。それこそ、母乳の回数やウンチだけではなく、ささいな表情の変化や呼吸やにおいまで全部。ママの目だけではなく、ママの体の細胞全部で赤ちゃんのことを見守っているほどに。

育児のスタートにかかわらせていただく医療従事者の言葉は、これから始まる育児に自信がもてるような言葉でありたい。母親として自信を持ってスタートしてもらえるような言葉をたくさん伝えたい…。自分自身の言動を含めて、そのことを忘れないように肝に銘じたいと思っています。

追伸:冒頭の、虐待の疑いをかけられ傷ついていたママは、その後自信を取り戻して元気に育児をしています。その小児科の前を通るだけで怖くて動悸がすると話していましたが、今では母乳育児も楽しんでいらっしゃいます。

直井亜紀 先生

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