不妊治療を続けていると思っていた以上に体力や精神力を使うことが多いですよね。
治療が進むにつれて「この方法でいいのか」と迷ったり、「もっと他に良い方法があるのでは」と悩んだりすることもあるかと思います。
そこで今回は日本以外の世界の国々に目を向けて、それぞれの不妊治療事情についてまとめてみました。
海外の不妊治療は日本とどう違うのか、現在の日本では何ができて何ができないのでしょうか。
もしも日本人が海外で治療を受けるとなったとき、どのような心構えが必要なのかも考えてみたいと思います。
日本の不妊治療の現状
まずは日本の不妊治療の現状をみてみましょう。
医療技術は進んでいるイメージのある日本ですが不妊治療についてはどうなのでしょうか。
不妊治療の開始年齢は遅め
日本では若いうちはキャリアを積んでから子供を、と考える人が多いようです。
そのため妊活を始める年齢が高く、不妊検査や治療の開始年齢もその分高くなる傾向にあります。
国際的にみても治療開始年齢が遅いと言われています。
治療成績は最下位から3番目という事実…
医療技術は高い印象のある日本ですが、意外にも体外受精の成功率は世界で最下位から3番目です。
日本の体外受精卵の成功率が低い理由は、排卵促進剤を使わない方法が主流だからと言われています。
できるだけ薬を使わず自然な方法でと考える人が多いようです。
通常の排卵でも赤ちゃんまで無事に成長する卵子はごくわずかといわれており、排卵促進剤を使わない方法だとさらに確率が減ってしまうのですね。
参考 ブルーバックス「不妊治療を考えたら読む本」浅田義正/河合蘭 著
国や自治体からの助成金・保険は?
日本では国や自治体から不妊治療にかかる費用の一部に助成金が支払われます。
対象となるのは特定不妊治療(体外受精、顕微授精)となり、下記の条件があります。
- 特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された法律上の婚姻をしている夫婦
- 治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
さらに住んでいる自治体によっては独自の助成金もあります。
また、所得制限により助成金が受けられない場合でも医療費控除によって還付金を受けられる場合があります。
参照:国税庁「不妊症の治療費・人工授精の費用」
海外の不妊治療の現状
それでは海外ではどのような不妊治療がおこなわれているのでしょうか。
主要な国の例を見てみましょう。
フランス
女性の就業率は日本と同じくらい高いフランスですが若いうちに子どもを産むことへの抵抗は少ないようです。
育児もパートナーと分担して行うので仕事をしながらの出産育児にあまり不安がないことがあります。
そのため若いうちから妊活を始めるカップルが多く、不妊治療開始年齢も早いのです。
また、不妊は病気と考えられているため保険が適用され、すべての不妊治療が無料で受けられます。
ただし年齢制限43歳まで、人工授精6回まで、体外受精4回までという制限があります。
アメリカ
アメリカは各州が独自の州法をもっているため同じ国内でも州によって制度も異なります。
医療保険に不妊治療をカバーする項目を設けている州では自己負担額を軽減することができます。
また加入している生命保険でカバーされる場合もあります。
基本的な治療の流れは日本と同じものの、タイミング法を何クールも試すのではなく早い段階から体外受精や人工授精に踏み切る傾向があるようです。
日本からの患者も多く、特に日本では受けられない治療を求めて渡米する人もいます。
2003年にタレントの向井亜紀さんが代理出産、2010年に衆議院議員の野田聖子さんが卵子提供で出産した例があります。
ロシア
ロシアは高度な医療を受けられ、欧米と比べると治療費用も抑えられることから各国から患者が集まってくるようです。
また、2015年にタイ、インドで外国人を対象とした代理出産が禁止されたため、規制の少ないロシアに渡り治療を受ける人が増えています。
日本人でも、2016年にフリーアナウンサーの丸岡いずみさんが代理出産をしたのが記憶にあたらしいのではないでしょうか。
タイ
タイは駐在日本人が多く、日本人向けのサービスも充実しています。
首都バンコクの一部の病院では日本語が通じ、設備も整ったところで治療を受けられますので日本人の患者が多くいるようです。
近年では国をあげてメディカルツーリズムを行っており医療技術も日々進化しています。
日本で受けられるのと同程度の治療が受けられるといえます。
メディカルツーリズムとは?
メディカルツーリズムとは直訳すると医療観光といい、居住国とは異なる国や地域を訪ねて医療サービスやを受けることです。
タイではここ数年国をあげてこれを促進しており、中東などからの患者が増えています。
中には高級ホテルのようなロビーの病院もあり、またスパやマッサージといったヘルスケア分野も含めたサービスを受けられることが人気のようです。
中国
中国では長らく一人っ子政策が行われていましたが、2016年から二人目の子どもを持つことが認められるようになりました。
これにより「二人目が欲しいけどなかなか授からない…」という不妊の悩みを持つ夫婦も増えています。
また男女の産み分けへの関心もあるようです。
しかし国内では施設の不足や複雑な規制などの問題もあり国外での治療を選択する人が増えているようです。
今後も不妊治療へのニーズが高まるにつれ、日本に治療に来るという例も増えていくと予想されます。
海外で治療を受けるときに考えておきたいこと
日本人が海外で不妊治療を受けるときどのようなことを考えておけば良いのでしょうか。
どんな治療を受ける?
まずは海外でどんな治療を受けるのかによって心構えも異なります。
海外で暮らしていて不妊治療をしたい場合
夫の転勤などで海外で暮らすことになり、現地で治療を受ける場合、現地の病院に行き診断を受けることになります。
文化の違い、言葉の壁もあります。
日本での治療歴がある場合は主治医によく相談し、現地にいる日本人の情報などから自分たちに合う病院、医師を選ぶことが大切になります。
日本ではできない不妊治療を受けたい場合
日本では卵子提供に関する法律の整備は進んでいないのが現状です。
JISRT(日本生殖補助医療標準化機関)という不妊治療専門のクリニックなどが集まってできた団体が独自のガイドラインを定めており、それに沿って限定的に行っているというのが現状です。
また、代理出産は日本産科婦人科学会見解では禁止を表明しています。
そのため州によっては代理出産が合法であるアメリカや規制の少ないロシアに行って治療を受ける日本人もいます。
ただし、金額も高額になりますし、産まれてきた子どもの親は誰になるのかといった法律上の問題も発生します。
慎重に判断することが大切です。
参照:JISRT(日本生殖補助医療標準化機関)「精子・卵子の提供による非配偶者間体外受精に関するJISARTガイドライン」
参照:日本産科婦人科学会「代理懐胎に関する見解とこれに対する考え方」
費用はどのくらい?
実際に海外で不妊治療を受ける場合自己負担額はどれくらいかかるのでしょうか。
国、治療法ごとの費用の目安
国や治療内容ごとに金額の目安をあげてみましょう。
- タイ卵子提供 約150万~200万
- アメリカ卵子提供 約500万~1000万
- アメリカ代理出産 約1000万~2000万
卵子提供や代理出産となると個人ではなくエージェントを通すため費用もより高額になります。
渡航する国や病院、エージェントによって費用も様々ですので事前によく情報を確認して判断することが大切です。
保険や助成金はどうなる?
「海外でも保険や助成金が受けられるのか?」
「自己負担額はどのくらいかかるのか?」
海外での治療は高額になるので保険や助成金は気になります。
基本的に保険は対象外
海外旅行保険では多くの保険会社が不妊治療にかかわる費用は対象外としています。
自分の入っている保険の補償内容を確認してみてください。
助成金も対象外
国や地方自治体の不妊治療に関する助成金は海外での治療は対象外となっています。
参照:厚生労働省「不妊に悩む夫婦への支援について」
医療費控除受けられる場合も
海外で不妊治療を受けた場合、確定申告時に高額医療費の申請をするということは可能な場合があります。
ただし治療の内容や範囲によっても違いがあるので事前に税務署などに確認しておきましょう。
参照:みんなの税理士「医療費控除になるもの?ならないもの?」
海外の不妊治療 日本との違い
海外の不妊治療について日本との違いをみてきました。
フランスの治療費実質無料やアメリカの成果主義など国によって治療への考え方も大きく異なっていることが分かります。
また、今後は海外で不妊治療をする日本人のケースも増えていくことが予想されます。
その場合は事前に情報や知識を十分に収集してより満足できる治療を受けられるようにすることが大切です。
文化や価値観は違っても赤ちゃんが欲しいという気持ちは共通しています。
それぞれの良いところを取り入れながら日本の不妊治療の技術や考え方も発展していくとよいですね。